東京地方裁判所 昭和41年(特わ)629号 判決 1970年7月15日
本店所在地
東京都千代田区神田淡路町二丁目一番地
平和観光開発株式会社
右代表者代表取締役
平田豊
本籍
東京都中野区沼袋三丁目四五三番地
住居
同都中野区沼袋三丁目二二番一五号
会社役員
平田豊
大正八年四月一五日生
本籍
東京都墨田区千歳町一丁目一〇番地の二
住居
右同
会社役員
鳥井利一
明治四二年八月二五日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官五味朗・弁護人遊田多聞・柳沼八郎・中井宗夫出席の上審理して、次のとおり判決する。
主文
被告会社を罰金一二〇〇万円に
被告人平田、同鳥井を各徴役六月に
処する。
但し被告人平田、同鳥井に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用(但し証人橋口昌典に支給した分を除く。)は、被告会社、被告人平田及び同鳥井の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社は、東京都千代田区神田淡路町二丁目一番地に本店を置き、別荘地の造成分譲等を営業目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人平田豊は被告会社の代表取締役社長、被告人鳥井利一は被告会社の代表取締役専務としていずれも被告会社の業務全破を統轄しているものであるが、被告人両名は共謀の上、被告会社の業務に関し法人税を免れる目的をもって、売上を除外して簿外預金を蓄積する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ
第一、昭和三七年九月二七日より昭和三八年八月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が七三、七八〇、一九六円であり、これに対する法人税額が二七、九三六、四三〇円あったのにかかわらず、昭和三八年一〇月三一日同都千代田区神田錦町三丁目二一番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三、二四一、二四二円であり、これに対する法人税額が一、一三一、六五〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二六、八〇四、七八〇円を免れ
第二、昭和三八年九月一日より昭和三九年八月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が六四、八三三、七五〇円であり、これに対する法人税額が二四、五三六、八〇〇円であったのにかかわらず、昭和三九年一〇月三一日前記神田税務署において、同税務署長に対し、二八、八五四、一九二円の欠損であり、納付すべき法人税はない旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって被告会社の右事業年度の正規の法人税額二四、五三六、八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人両名の当公判廷における供述
一、被告会社の商業登記簿謄本(昭和四一年八月三〇日付、以下四一・八・三〇日付のように略す。)
一、被告人平田の提出書(四一・二・一九付)二通
一、被告人平田、同鳥井両名名義の各上申書(検察官請求証拠目録乙分中四一・一〇・二四付、一・二一付、三・二九付、一・二八付、二・二付)
一、被告人鳥井の大蔵事務官に対する各質問てん末書(四〇・七・二七付、八・一七付、一一・一三付)及び検察官に対する供述調書(四一・一〇・二四付)
一、被告人平田の大蔵事務官に対する各質問てん末書(四〇・四・六付、五・一四付、七・二二付、一〇・二三付二通、一一・一五付、四一・一・二〇付)及び検察官に対する各供述調書(四一・一〇・二四付、一〇・一八付)
一、平和観光開発株式会社提出の各上申書(検察官請求証拠目録甲一1~23の中、四〇・八・六付、一二・八付三通但し甲一2、3、5のもの、四一・一・一〇付二通、一・二一付二通但し甲一12、14のもの、一・二五付、一・二六付二通但し甲一17、18のもの、一・二八付)及び各上申書の添付別紙表部分(四〇・一二・八付但し甲一4のもの、四一・一・八付、一・一〇付但し甲一7のもの、一・一九付、一・二一付但し甲一13のもの、一・二一付但し甲一15のもの、一・二七付二通、一・三一付)
一、証人渡辺軍平、磯田平太郎、磯田喜恵子、三浦久免子、鈴木寅吉、須藤信喜、当山清、松岡七次の当公判廷における各供述
一、証人千葉富雄の尋問調書
一、当裁判所の検証調書
一、渡辺軍平の大蔵事務官に対する質問てん末書(四〇・一一・一四付)及び検察官に対する供述調書(四一・一〇・二七付)
一・水野幸子、平田淳子、薄井喜一郎、箭内源典の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、(土地購入関係者の供述書関係)川上作太郎、井上猛男、小林盛次郎、佐藤一栄、佐藤一繁、黒川つね、田中加代、松沢康則(二通)、島田フク、池田治子、当山清、望田以久、須田静子、石川義信、小谷野信太郎、渡辺正、松村菊治、松村伸夫、中根実、加納治中、黒川つね、佐藤栄、内山逸貴、服部ヨウ、木村良子、袴田佑輔、高須賀壮吉、浅野寿美子、宗像静子、佐野亀子の各上申書及び佐藤栄、中島伊太郎、三浦久免子、鶴岡津音の各大蔵事務官に対する質問てん末書
一、査察官調書類六通(固定資産の減価償却額計算書、役員に対する認定利息について、損金不算入の交際費について、公表売上の過誤記載、所轄署の調査否認内容について、銀行調査書類)
一、足利銀行東京支店支店長の回答書
一、平和相互銀行深川支店、三菱銀行野方支店、三菱銀行秋葉原支店の各証明書
一、押収してある以下の証拠物件(当庁昭和四三年押第七四一号、以下の頭書の数字はその符号番号ないしその枝番号と枝番)
1の1、2 金銭出納簿 各一冊
1の3 現金出納帳 一冊
2の1、2 金銭出納帳 各一冊
3 売上表等綴 一綴
4 売上一覧表綴 一綴
5 金銭出納帳 一冊
6 元帳 一冊
7 契約台帳 一綴
8 領収証等綴 一綴
9の1、2 納品書、領収証等綴 各一綴
10 決算資料等綴 一綴
11 入出金伝票綴 一綴
12 銀行勘定帳 一冊
13 売上帳 一綴
14 売買契約書綴 一綴
15 売買契約書、同領収書控綴 一綴
16 契約書綴 一綴
17 受託分契約書 一綴
18 契約書綴 一綴
19 報告書綴 一綴
20 後藤関係ノート 一冊
21 決算関係資料類 一綴
22 東梅建設関係書類 一綴
23 小森電気工業関係書類 一綴
24 沢井電業社関係書類 一綴
25 八幸製作所関係書類 一綴
30の1、2 売掛補助簿 各一綴
31 土地売買契約書 一綴
32 簿外関係計算書 一綴
33 分譲台帳並びに図面 一綴
34 三浦取締役関係書類 一綴
35 土地売買契約書等(中島) 一綴
36 雑書類 一綴
37 売買契約書等綴 一綴
38 鉱泉地及び土地売買契約書等 一綴
39の1、2、3 入出金伝票等綴 各一綴
40 仮払金整理簿 一綴
41 袴田関係書類 一綴
42の1、2 決算関係書類 各一袋
43 須藤商事関係書類 一袋
44 受託契約書綴 一綴
45 給料計算書 一綴
46 社内規定綴 一綴
47 役員会議事録 一綴
48の1、2 元帳 各一綴
49の1ないし26 領収書綴 各一綴
50の1ないし12 現金及び振替伝票綴 各一綴
51の1ないし12 領収書控 各一冊
52 請負工事契約書 一綴
53 高木長松関係書類 一綴
54 造成工事関係書類 一綴
55 雑書類 一袋
56の1ないし6 土地売買契約書 各一枚
57の1ないし5 土地台帳写 各一綴
58 法人税確定申告書 一綴
59 法人税確定申告書添付書類の訂正届 一綴
60 法人税確定申告書 一綴
61 重要書類綴 一綴
62 土地売買契約書 一綴
65 約定書 一枚
66 メモ 一枚
67 那須関係登記書類受領簿 一冊
68 那須売上簿 一冊
(被告人、弁護人らの主張に対する判断)
A 被告人、弁護人らの主張
一、須藤商事株式会社(以下須藤商事という。)との委託販売契約の主張について
被告会社は、須藤商事から土地を仕入れたのではなく、以下に述べる条件付委託販売契約に基づき委託販売を行っていたものであり、仮装経理をしたのではないから、検察官主張金額のうち、須藤商事からの仕入を前提とする部分の勘定科目-売上高、受託手数料、土地仕入、造成工事、繰延造成費、雑収入(第二年度はさらに仲介手数料)を修正すべきである。
すなわち
須藤商事は、昭和三七年九月一二日に長喜治に代金一五〇、〇〇〇、〇〇〇円で売却した土地一五〇、〇〇〇坪のうち一〇〇、〇〇〇坪について、残代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払遅延を理由として昭和三八年六月に須藤商事に回復登記を行ったが、被告人らは、右須藤商事代表取締役須藤信喜及びその代理人後藤正行(別名「一誠」)と交渉し、右一〇〇、〇〇〇坪のうち二五、〇〇〇坪を被告会社宛に所有権移転登記をしてもらい、更に同人らと交渉した結果残りの土地である七一、七九〇坪について、右後藤正行との間に
(1) 被告会社が須藤商事の委託を受けて販売し売上金額の一割を委託販売利益金として受領する旨の契約書(符四三号のうちタイプされた昭和三八年八月二七日付契約書。以下委託販売契約書と略称する)
並びに
(2) 被告人両名が須藤商事から坪当り代金二、一〇〇円で買い受ける旨の契約書(前同号のうち手書きされた前同日付契約書。以下売買契約書と略称する)
を作成するに至った。
この二個の契約書は次のような関係にある。当時須藤商事側は土地売買代金の完済を怠った長喜治に対し極度の不信感を抱いていたため、後藤正行は、「長およびその一族が被告会社と関係ある間は、右土地を被告会社に売渡す訳にはいかない。そこで長およびその一族が被告会社と関係がなくなるまでは前記(1)の委託販売契約によって被告会社に右土地を分譲はさせるが被告会社は右土地の売上金の一割の手数料収入のみを得ることとする。しかし将来長およびその一族が被告会社と全く関係がなくなった場合には前記(2)の売買契約に従い須藤商事は右土地を被告会社に坪当り代金二、一〇〇円で売渡すこととする」との条件を出し、これに応じなければ右土地は被告会社に分譲させない旨通告して来たので、やむなく右条件を応諾した結果前記二通の契約書が作成されたものであるのでいずれの契約も真正なものであって、一方が真実の契約、他方が虚偽の契約ということにはならない。ただ(2)の売買契約は、長及びその関係者が被告会社と関係を断つことを停止条件として効力を発生する契約であるので、条件成就までは前記(1)の契約に従い委託販売が効力を有するものであり、経理処理もそのようにして来たものであって仮装経理をなした訳ではない。その後昭和三九年一一月になって長およびその関係者が被告会社と関係がなくなったので昭和四〇年八月期の期末決算に当っては前記(2)の契約に従った処理をする予定でいたところ昭和四〇年四月六日に東京国税局の査察を受けたためその処理が出来なくなったものである。
二、造成費について
(一) 見積原価計算について
造成費について検察官は昭和三八年八月期は坪当り三二〇円、昭和三九年八月期は坪当り三三一円と算定しているが、この金額は計算の基礎に誤りがあり正しくない。被告人らは、被告会社の営業開始当初より本件分譲土地の造成は五ケ年計画で行うこととし、(1)主要道路はアスファルト舗装、(2)中小道路は妨塵舗装又は小砂利を入れて歩き易くする、(3)水道幹線を敷設する、(4)危険個所の石組および下水工事を行い土砂崩れを防止する、(5)レクリェーションセンターを建設することをその計画内容としており、当時顧客にもその工事を将来において平和観光が行うことを話し、そのことが分譲土地売買契約の内容(債務負担付売買)となっていたものである。そこで被告会社としてはこの契約に基く債務の履行として右の工事をその後実施したものであり、造成費の計算は、当然この工事のために支出した金額を当期において見積った金額(見積原価)を基礎とすべきであって、これによって計算すれば造成費は以下のとおり坪当り七二〇円となる。
<1> 当社は以上の条件を履行する為、今日迄に次の支出を行った
(A) 第一期 (37.9.27~38.8.31) 39,774,783円
(B) 第二期 (38.9.1~39.8.31) 14,649,150
(修繕費より振替) 23,553,150
(C) 第五期 (41.9.1~42.8.31) 10,046,485 付表Ⅰの通り
計 (当期迄) 88,023,568
(D) 第六期 (42.9.1~43.8.31) 30,254,850 付表Ⅱの通り
(支出見込額) 30,254,850
合計 118,278,418
<2> 上記の造成費を坪当に計算すれば
118,278,418(円)÷164,228(坪)=720(円)
<3> 付表Ⅰ 第五期造成工事内容(41.9.1~42.8.31)
湯本地区
道路工事 渡辺建設 1,135,800円
基礎石工事 菊地鶴長 22,200〃
境界石 後藤コンクリート 70,000〃
浦 388,120〃
道路工事 墨東化成 5,537,730〃
〃 〃 2,274,680〃
〃 〃 617,955〃
計 10,046,485円
<4> 付表Ⅱ 湯本地区工事予定表
1. 主要道路アスファルト舗装 9,015,320円
中小道路防塵舗装又は小砂利入れ 6,908,000円
2. 水道幹線 4,582,880〃
3. 危険個所修理 9,802,650〃
4. リクリェーション -
計 30,254,850円
以上の金額を基礎として各事業年度における売却土地に対する見積原価額を計算すべきである。
このような見積原価計算は、企業会計原則にいう費用収益対応の原則に従うものであって、昭和三八年八月期および昭和三九年八月期に売上げた土地については、右の坪当り七二〇円と計算された造成費をそれぞれの事業年度に対応させて原価として認めるべきである。そのことは昭和四四年五月一日制定、同年七月一日施行の法人税基本通達の二-二-二の「造成団地の分譲による損益の計上」の規定を見れば明かである。もっともこの規定は新設のものであるが、旧基本通達当時もこの規定と同じ考え方が認められていた筈である。また被告会社は当時会計学の知識の欠如から右の規定の趣旨にそった原価の見積は行っていなかったが、右の規定の「分譲にかかる収益の額および原価の額の計算については次による」との断定的規定方法から看れば法人が右の原価見積を行っていなかったとしても、逋脱所得の 算上、この規定の趣旨に沿った原価計算を行い、これを費用として認めるべきである。
(二) 鈴木建設株式会社に対する造成工事費について
検察官は昭和三八年八月期の造成工事費のうち鈴木建設株式会社(代表者鈴木寅吉)を相手方とする一六、六〇〇、〇〇〇円は架空計上であるとして否認するが、右は真実鈴木建設株式会社に造成工事をさせることで契約を締結したものであって架空ではなく、また契約工事金額全額を当期の造成工事費に計上したのは、工事原価引当金的な意味で計上したものである。仮りにこの金額の造成工事費扱いが困難であるとしても、この中旭基礎株式会社分の三、〇二五、〇〇〇円は債務を生じていたのであるから、造成工事費として算入すべきである。
三、支払利息について
昭和三八年八月期分として、長喜治が銀行から借入れた五〇、〇〇〇、〇〇〇円の利息を被告会社が支払った二、四八七、〇〇〇円及び長の須藤商事に対する遅延利息三、九四一、八〇〇円は、被告会社と長との契約により、被告会社が支払う旨の契約が成立し、現に支払われたのであるから、これを計上すべきである。昭和三九年八月期について架空であるとして否認された一四一、〇〇〇円は架空ではなく前払費用であるから、これを計上すべきである。
四、売上関係その他について
(1) 小林幾次郎に対する売上金中六、〇〇〇円の値引きについて
元帳によると昭和三九年八月三一日に六、〇〇〇円が値引きされているのでこれを計上すべきである。
(2) 小沢亀一に対する売上値引四〇、〇〇〇円について
元帳によると、同人に対する売掛金の回収残は値引きされている。
(3) パーカー分の売上につき三四三、二一四円の過大加算について
元帳記載によれば
2/11 馬熙鳴 売上 18,223,290
8/11 パーカー 〃 10,534,185
右パーカーに売却した為二月一一日分馬燕鳴分戻し
8/31 △11,705,895
となっているが
右八月三一日戻し記入は八月一一日のパーカー分一〇、五三四、一八五円であるべきを一一、七〇五、八九五円減算したので売上過大控除一、一七一、七一〇円となったので之を修正するため一、三五五、八三四円の加算を行った。このため一八四、一二四円加算過大となったので再びこの過大分を修正するため同日一、〇一二、六二〇円の控除を行った。本来修正すべき金額は一八四、一二四円であるべきを一、〇一二、六二〇円とした為八二八、四九六円の控除過大となり売上の過少計上額は八二八、四九六円でありこの額の加算でよいところをさらに検察官は、一、一七一、七一〇円加算しているので三四三、二一四円加算過大となったものである。
(4) 一〇、七八六円について
右金額は昭和三九年三月四日元帳売上勘定貸方欄に
摘要欄記入なし 10,786円
と記入されているがこの金額は為替レート交換差金で売掛金え入金すべきところこの仕訳になったので売上過大となっている。
(5) 一、〇〇〇、〇〇〇円について
右金額は元帳売上高貸方欄に
1/31(39年) 当山清 1,000,000円
と計上されているがこの金額は税務当局で第一期更正として売上高に加算しているので被告会社が第二期で右金額の計上をする必要がなくなった、よってこの金額は控除すべきである。
(6) 売上高の誤謬計上七、〇四一、八〇五円について
右金額は昭和三九年八月三一日元帳売上勘定貸方欄に
井上須田分前期売上に付戻雑損失 7,041,805円
と記入されているが如何なる意味で売上高に計上したか不明である。
五、仲介手数料について
被告会社が営業費負担金(仲介手数料)として日本地業に支払った、坪当り八五〇円に須藤商事委託販売済分一七、〇六四坪を乗じた分の一四、五〇四、六〇〇円を加算すべきである。
六、保安林指定評価損について
昭和三九年八月期において保安林指定評価損二、九二一、六八八円を認容すべきである。
被告会社は、土地仕入後その一部につき保安林の指定を受けた。土地分譲業者にあっては、販売予定地につき保安林の指定を受けたことは、法令ないし行政処分による評価減額が強いられる場合であり、本来損金経理をすべきであったが経理の手落ちにより評価損をたてなかったものである。本件の場合、あるべき企業会計と税務処理が求められている以上次の評価損を認容すべきである。
指定坪数 買受価価格 残存価額 評価損
952×(3,410円-341円)=2,921,688円
B 当裁判所の判断
一、須藤商事との委託販売契約について
被告人両名、証人後藤正行、渡辺軍平、磯田平太郎、磯田喜恵子、長喜治の各供述と符20、39、43、68号の各証拠物などによって検討するに、まず弁護人主張 一 記載の事実関係のもとに、その(1)の委託販売契約書(2)の売買契約書がそれぞれ作成されたこと、被告会社では須藤商事の土地の仕入勘定はたてず、形式上(1)の約旨に従い委託販売の経理をし、但し売上の一割の手数料を収入として計上し残りを後藤借入金として処理したことが認められる。
このように須藤商事と被告会社との間に(1)の委託販売契約が成立した事情は、およそ以下のとおりである。須藤商事は、当時代金支払を期限までに履行しなかった被告会社の株主で役員であった長に対し、不信感を持ち、同社の代理人後藤正行が、長及び関係者が被告会社と手を切るまでは、右土地を被告会社に売るわけには行かぬと主張され、そこで被告人両名が後藤正行と相談して(1)の内容の委託販売契約の契約内容どおり履行したのでは被告会社としては収支がひきあわず赤字になる、そうすると長らは被告会社と手を切るであろうというもくろみで、(1)の委託販売契約書を作成し、これを長にみせたものである。次に(2)の売買契約書が須藤商事の代理人後藤正行と被告人両名との間に真正に作成されたことは明らかな事実であるところ、検察官はこれが実際の取引の約定であり(1)の委託販売契約は仮装であると主張し、弁護人は(2)の売買契約書は、長らが被告会社と手をきることを停止条件とする条件付契約である旨主張する。そこで(1)の委託販売契約成立のいきさつを考慮しつつ(2)の売買契約についてこの点を検討するに(2)の売買契約書には、弁護人ら主張のごとき条件は付記されていないことの外、被告会社が日本地業(後藤正行)を介し、土地を販売したときは、売上金額の手数料収入を除いた残りの後藤借入金勘定のうち後藤借入金の返済として坪当り二、五〇〇円を支払う経理処理をし、残りの差額はそのまま被告会社に留保されていたこと、右借入金の返済は土地代であり、この土地代金は数件の分譲契約が成立したごとにまとめて支払われており、後藤関係ノート(符20号)の記載内容からみてもこれが土地仕入代として処理されていることがうかがわれる。また後藤正行は被告会社とは(2)の売買契約に従って取引するつもりであって、(1)の委託販売契約書は長に対するみせかけのものにすぎないと考えていたのであり、須藤商事の代表者須藤信喜に対しても(1)の委託販売契約書のことは報告しなかったというのである。さらに後藤は須藤に対し、被告会社から代金の支払を受ける都度「那須売上簿」(符68号)に代金額等を記入し、須藤に代金を手渡していたという事実が認められる。
以上の事実関係その他諸般の状況をあわせ考えると、被告会社は須藤商事より日本地業を介し、(2)の約旨に沿って土地を買い受け、造成分譲していたことが認められ、(1)の委託販売契約書は長に対するみせかけのものであり、その経理処理を前提とする弁護人らの主張は採用しない。
二、造成費について
(一) 見積り原価の主張について
造成土地の売上原価、造成工事の原価計算の基礎となるべき費用は、権利義務の確定したものに限られるところ、被告会社のような長期間にわたる別荘地分譲業者において、一事業年度内に造成工事完了を待たずに分譲を開始したような場合には、確定費用に基づく原価計算を行うに止まらず、費用収益対応の原則を根拠として、期間に適正に配分された見積り費用の金額(見積り原価)をも算入することができると解せられ、弁護人の所論は、一般論として肯定される。ところで見積り原価が認容されるためには、少くとも(1)具体的にその金額を見積り得ること(2)継続的にその方法を用いることが健全な会計処理上必要である。そして金額を見積るということは、損益面では売上に対する原価として把握され、貸借対照表面においてみれば債務(未払金)として計上されるだけの資格を備えなければならないのであるから、単なる見込みや引当ではなく、事実を具体的に把握し、これを金額として測定しなければならないのである。
これを本件についてみるに、被告人両名は、被告会社設立後栃木県那須郡那須町大字湯本の原野に別荘地の造成、分譲に着手したが、事業を始めるにあたっては、自然を生かし、丘陵の地形、温泉地帯であることの地理的条件を生かし、自動車道路、水道、電気工事等の基礎設備はもとより、プール、池、娯楽センターなども具備した山紫水明の別荘地の夢を実現しようとの基本構想を有し、その実現も数年にわたる長期事業を企画していたものであった。そして、その構想、企画は漸次実現され、昭和四四年ころまでには別荘地に別荘も建ちはじめ、道路の舗装、防塵舗装、水道、電気、危険個所修理、基礎石、境界石工事の外テニスコート、ゴルフ場、池なども整備されて来たことが認められる。
しかしながら、本件各事業年度においては、被告会社において、弁護人の主張(付表Ⅰ、Ⅱ)するような工事を具体的に見積った事実はなく、又見積り得る状態にもなかったと認められる。すなわち、道路については、巾員、距離、舗装工事の程度方法についての具体的な企画はなく、坪当り工事原価の見積りが不可能であったし、プールや娯楽設備等についても、当時どの場所に設定するというところまでは企画できず、ただ被告人平田の構想に止まっていた(被告人平田の供述)という程度にすぎないのである。水道工事についても、土地が売れ住宅が建つにつれて漸次のばすという企画があった程度にすぎない。以上のほか関係事実に照らして考察すれば、被告会社の経理上の不手ぎわの点をしばらく不問にするとしても、そもそも見積り原価を計上すべき実質はなかったということに帰着し、弁護人主張の見積原価計算は認容できないといわねばならない。(見積り原価は、当該事業年度における期間損益として具体的に把握されることが必要なのであって、これを後の事業年度において生じた諸工事費用等を遡って各事業年度に配分するという考え方は許容できないのである。)
よって弁護人の主張は採用しない。
(二) 鈴木建設株式会社に対する造成工事費について
符22、49、52、54号及び証人磯田平太郎、鈴木寅吉の公判供述、被告会社の昭和四一年一月三一日付上申書によれば、被告会社と鈴木建設との間の請負工事契約書があるけれども、その内容が真に合意されたわけではなく、契約の具体的な内容の記載はないばかりか、工事が実際に着手されたこともないのであって、契約が真に成立したとは認められない。弁護人はこれらを工事原価引当金的な意味で計上したと主張するが、かような引当金の計上は税法上認められないし、又見積り原価と把握する余地もないものである。
なお旭基礎株式会社分の金額三、〇二五、〇〇〇円は、右鈴木建設工事費の一部を旭基礎分として配分したものと認められるのであり、その工事についての請負契約、工事内容を証明すべき証ひようはないのである。
以上の次第で、右工事はすべて実体のない計上といわざるを得ないから、弁護人の主張は採用できない。
三、支払利息について
まず支払利息の発生原因を調べると、検察官主張の金額は、長喜治が須藤商事に支払うべき土地代金に充当するため、長自身が昭和三八年一月一一日平和相互銀行深川支店より借入れた五〇、〇〇〇、〇〇〇円に対する利息であり、また簿外支払分三、九四一、八〇〇円は、長が須藤商事に対する土地代金の支払を遅延させたため生じた遅延利息である。従って、このような支払利息は、長の個人的な債務に外ならず、直ちに被告会社が支払うべき義務のあるものではない。しかしながら、符43号、44号、62号の各書類と証人長喜治、被告人両名の公判供述、被告人平田の昭和四〇年一二月八日付大蔵事務官に対する質問てん末書等によれば、被告会社は、当時、右支払利息をそれぞれ支払ったこと、被告会社は、長の買受けた土地を分譲することを事実上の目的として設立発足したという経過があり、かつ当時分譲販売も遅れがちであったこと、及び長と被告会社との密接な関係を考えると、被告会社と長又は須藤商事との間に、明示の合意があったわけではないが、要するに被告会社が右支払利息を負担し、その負担分については長から取立てるつもりはなく、その取立て方法についての取り決めが何もなかったこと、もし立替金であるとするなら、かような性質のものは短期に決済されるのが通常であるところ、当時決済されず、たゞ後に被告人平田が契約の厳密な解釈によれば、被告会社に右支払利息を負担すべき理由はないとして、長にその旨を通知したにすぎないこと等の状況をあわせ考えると、判示各年度において被告会社が支払った各支払利息等の金額は、被告会社の事業に関連する経費(雑損)として認容できないものではない。よって弁護人の主張は理由があり、採用すべきである(勘定科目上は支払利息に計上する。)
四、売上関係その他について
(一) 小林幾次郎ほか四口(弁護人主張四(1)ないし(5))について売上高については、売上表(符3号)を認定の根拠とすることが、本件の場合妥当である。(本件の売上高公表には、弁護人主張の数額を含めていないのであるから、含めていないものについて過大計上とする弁護人の主張は的はずれである。)弁護人は、元帳(符48号の2)の売上勘定の記載をもとにして、過大計上であると主張するので、検討するに、右の元帳を認定の根拠とするかぎり
(1) 小林幾次郎関係の六、〇〇〇円
(2) 小沢亀一関係の四〇、〇〇〇円
(3) パーカー関係の三四三、二一四円
(4) 昭和三九年三月四日の摘要欄の記載のない一〇、七八六円
(5) 同年一月三一日の当山清の一、〇〇〇、〇〇〇円
の合計一、四〇〇、〇〇〇円は、弁護人の主張どおり減額すべきである。しかしながら、元帳による売上高も、売上表による売上高も合計は一二九、四三三、八三四円となるのであって合計額(公表)には差異なく、ただ元帳の記載内容には、借方、貸方にそれぞれ不当経理があり、帳尻を合わせた点が認められるのであって、この間の詳載は別紙三の売上表・元帳(売上勘定)対照表記載のとおりである。すなわち、元帳記載に基づき右のように一、四〇〇、〇〇〇円を減ずるというのであれば、他方
<1> 前記売上の解約分を当期売上から不当に減額していたのを雑損失に振替えるにさいし、須田分の解約額に五〇〇、〇〇〇円の経理ミスがあり、それがそのまま売上を不当に減額している分として五〇〇、〇〇〇円
<2> 当期の売上を不当に減額している昭和三九年八月三一日の吉田の分(相手方勘定がない)九〇〇、〇〇〇円
の合計一、四〇〇、〇〇〇円を加算すべきことになり、その売上総額においては、売上表によるも、元帳によるもかわりはない。なお小林幾次郎関係の売上値引は、その時点で値引すべき売掛金もなく、又現実の支払もしくは未払金の計上はないので本来値引すべき事実はなかったというべきであるし、小沢亀一関係は、売上値引に関する被告会社の経理処理が売上と売上値引勘定の両建になっており、この点は値引として計上ずみである。要するに弁護人の主張は、売上表と突合しない元帳記載の不当経理面の一部のみをとり出して自己に有利に援用せんとしているにすぎないものというべきであって、採用できない。
(二) 売上高の誤謬計上七、〇四一、八〇五円について
弁護人は、元帳売上勘定の昭和三九年八月三一日付貸方欄の井上須田分七、〇四一、八〇五円がいかなる意味で計上したか不明で誤謬であると主張するが、右金額は、元帳によっても
<1> 昭和三九年二月二九日井上前期分解約 五、七一六、〇〇〇円
<2> 同年三月九日須田分解約 一、八二五、八〇五円
の合計額(但し<2>の金額については、五〇〇、〇〇〇円の経理ミスがあり正しくはこれを減額して一、三二五、八〇五円)であることが明らかである。これは、前期売上分を解約されたときには、本来(借方)雑損失、 (貸方)売掛金の経理処理をなすべきところ、誤って(借方)売上、(貸方)売掛金と処理していたので、これを訂正するため、期末において(借方)雑損失)、(貸方)売上の振替処理をしたことが明らかであるから、なんらの不都合はない。(複式簿記の基本原理からいって、勘定操作にあたっては、一勘定の処理のみではなく、常に相手方勘定との関連において考慮しなければならないのであり、弁護人の主張は、単に自己の有利な記載部分のみをとり出して論じているにすぎない。)
なお付言するに、雑損失に振替えた七、〇四一、八〇五円のうち、土地原価三、一二〇、七六〇円についてはこれを土地勘定に戻し入れしていることが認められ、その間の経理にも問題の余地はないのである。
五、日本地業への仲介手数料関係について
証人後藤正行と被告人鳥井の公判供述によれば、「被告会社は、日本地業を維持するための経費として月五〇万円ぐらいの金額を支払う話合ができ、清算の折に千七、八百万円の計算で一応債権債務を相殺するという書類を作った記憶がある。」というのであるが、当時被告会社の具体的な支払債務として勘定していたかどうかは証拠上判然としないし、支払をなしたことの証拠もないので認容することはできない。
六、保安林指定評価損の主張について
被告会社は、土地仕入後その一部の土地九五二坪につき保安林の指定を受けたため、分譲するための資産として評価換えをなし得る適状にあったもの(改正前の法人税法三三条二項、同法施行令六八条三号)と認められるが、評価損として認容するためには、損金経理をしなければならないところ、被告会社は、かかる指定の事実を熟知しながら、損金経理をしなかったのであるから、認容することはできない。弁護人はあるべき企業会計と、税務処理が求められる観点から、損金経理をしていない評価損を認容すべきであると主張するが、逋脱所得の計算においても、もとより税法の課税計算規定の趣旨に沿ってこれを行わなければならないところ、評価損を計上するかどうかというような、法人の選択に委ねられている事項で、その経理如何によって税額計算が行われるような場合には、税法の規定する損金経理をすることが損金の額に算入する要件となるのである。被告会社が損金経理をしなかった以上、その張簿価格は同一理由によって減額されることはなく、これを譲渡したときに譲渡益が少くなるという形で、実際面で損益の配分が変ってくるということになるに過ぎない。よって弁護人の主張は採用しない。
(法令の適用)
一、被告会社につき 昭和四〇年法律第三四号附則一九条により改正前の法人税法四八条、五一条(刑法六〇条)、刑法四五条前段、四八条二項
一、被告人平田、同鳥井につき 昭和四〇年法律第三四号附則一九条により改正前の法人税法四八条、刑法六〇条(各徴役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、二五条一項
一、訴訟費用の負担につき 刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 小島建彦)
別紙一 修正損益計算書
平和観光開発株式会社
自昭和37年9月27日
至昭和38年8月31日
<省略>
別紙二 修正損益計算書
平和観光開発株式会社
自昭和38年9月1日
至昭和39年8月31日
<省略>
別紙三 売上表・元帳(売上勘定)対照表
38.9.1.~39.8.31.
<省略>
別紙四 売上表・元帳(売上勘定)対照表(続き)
38.9.1.~39.8.31.
<省略>